大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

盛岡地方裁判所 平成5年(わ)39号 判決

本店所在地

岩手県一関市赤荻字桜町一〇六番地の二

東北畑瀬機工株式会社

(右代表者代表取締役 畑瀬孝之)

本籍

京都市伏見区過書町七八九番地

住居

岩手県一関市字大町一二七番地

会社役員

畑瀬孝之

昭和五年二月一〇日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官佐藤美由紀出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人東北畑瀬機工株式会社を罰金三八〇〇万円に、被告人畑瀬孝之を懲役一年六月にそれぞれ処する。

被告人畑瀬孝之に対し、この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社東北畑瀬機工株式会社は、岩手県一関市赤荻字桜町一〇六番地の二に本店を置き、鉄骨建築工事及び配管工事等を業とする資本金三〇〇〇万円の株式会社であり、被告人畑瀬孝之は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人畑瀬孝之は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の材料費を計上し、未成工事支出金及び建物等の取得価格を完成工事原価として計上する等の不正な方法により所得を秘匿した上

第一  昭和六三年四月一日から平成元年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五九八九万六二七六円であったにもかかわらず、平成元年五月三一日、岩手県一関市田村町七番一七号所在の所轄一関税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一三七二万一三一六円で、これに対する法人税額が四一九万四四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二三五三万三九〇〇円と右申告税額との差額一九三三万九五〇〇円を免れ

第二  平成元年四月一日から同二年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億三三七七万一三八七円であったにもかかわらず、同二年五月三一日、前記一関税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五〇一三万六四一四円で、これに対する法人税額が一八六二万四〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額五二〇六万六〇〇〇円と右申告税額との差額三三四四万二〇〇〇円を免れ

第三  平成二年四月一日から同三年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五億五七六九万五五三二円であったにもかかわらず、同三年五月三一日、前記一関税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億七五三七万九〇四七円で、これに対する法人税額が六三六五万八五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二億七〇二万七〇〇〇円と右申告税額との差額一億四三三六万八五〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人畑瀬孝之の当公判廷における供述

一  被告人畑瀬孝之の検察官に対する平成五年三月一一日付供述調書(資料添付のもの)

一  登記官作成の商業登記簿謄本

一  佐々木章(四通)、高橋恵蔵(二通)、大庭博昭、高橋トミエの検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の左記各調査書

(1)  材料仕入高調査書

(2)  給料賃金手当調査書

(3)  外註加工費調査書

(4)  消耗品費調査書

(5)  減価償却費調査書

(6)  機械等経費調査書

(7)  期首・期末仕掛品棚卸高調査書

(8)  役員賞与調査書

(9)  公租公課調査書

(10)  特別減価償却費調査書

(11)  役員賞与損金不算入額調査書

一  収税官吏作成の領置てん末書

判示第一の事実につき

一  押収してある法人税確定申告書(平成元年三月期)

判示第二の事実につき

一  押収してある法人税確定申告書(平成二年三月期)

判示第三の事実につき

一  押収してある法人税確定申告書(平成三年三月期)

(法令の適用)

被告人東北畑瀬機工株式会社の判示各所為は、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項(判示第一、第二の各罪につき罰金の寡額は刑法六条、一〇条により平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項、刑法一五条による。)に該当するところ、情状によりそれぞれ法人税法一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四八条二項により各罪につき定めた罰金の合算額の範囲内において被告人東北畑瀬機工株式会社を罰金三八〇〇万円に処し、被告人畑瀬孝之の判示各行為は、いずれも法人税法一五九条一項(判示第一、第二の各罪につき罰金の寡額は刑法六条、一〇条により平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項、刑法一五条による。)に該当するところ、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により、犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人畑瀬孝之を懲役一年六月に処し、同被告人に対しては、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から四年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、鉄骨建築工事等を営む被告人東北畑瀬機工株式会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していた被告人畑瀬孝之が、判示のとおり、平成元年三月決算期から同三年三月決算期までの三事業年度にわたり、被告会社の法人税合計一億九六一五万円を脱税したという法人税法違反の事案である。脱税が比較的長期間にわたり脱税額も高額である上、ほ脱率も平均六九・四パーセントと相当高く、動機も不況に備え社内資金を留保しようとしたもので格別同情すべきものはないこと、手段、方法は、会社資産である未成工事に係る原価及び機械装置、建物等の取得金、長男の結婚費用等を完成工事原価に付け替える等して工事原価を水増しする等し、計画的かつ巧妙に所得を秘匿しているものであること、特に取引先に架空の納品書の作成を依頼するなどして架空原価を計上する等悪質なものがあること等を考えると、被告人畑瀬孝之の刑事責任は相当重いといわなければならない。

しかし、事実を率直に認め、正規の額で修正申告を行い、本税を含め延滞税、重加算税、地方税等四億六四四一万円余をすべて納付済みであること、古く労働基準法違反で罰金刑に処せられた以外に前科がなく、反省の情が特に顕著と認められること等その他弁護人指摘の被告人畑瀬に有利な諸般の情状を考慮し、被告人畑瀬孝之に対しては懲役一年六月が相当であるが、その刑の執行を猶予し、被告会社に対しては、右に述べたようなほ脱額、ほ脱率、その手段、方法等に照らすと主文の罰金に処するのが相当であると考える。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 堀田良一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例